膝の変形性関節症は痛みの程度や関節の変形程度、画像診断などによりどの治療法を選ぶかを患者様と相談しながら決めていきます。
痛みを緩和する保存療法、骨切りや人工関節などの手術療法、そして前回お話しした再生医療です。
いずれも、治療をしたから終わりではなく、その後どう過ごすかが大切です。
今回は、再発を防ぐために必要なリハビリ、セルフマネジメントについて松﨑医師が解説します。
手術や再生医療を受けた後のリハビリテーションが大切
膝の変形が強く、これまでいろいろな治療法を試しても改善されなかった方にとって人工関節置換術はとても有効な治療法です。
また、PRP療法や幹細胞を用いた再生医療も患者様への負担が少なく症状を改善できる治療法として今後さらに期待されるでしょう。
根本的な治療法がないといわれてきた膝の変形性関節症ですが、膝の痛みを長期的に改善することが可能になってきているのです。
しかし、治療を受けたからといって安心はできません。施術前と同じような生活をしていては、再発の恐れがあるからです。まずはすぐにリハビリテーションをはじめ、膝関節を動かしていきましょう。
手術をした場合と、再生医療を受けた場合でのリハビリテーションについて簡単に説明します。
人工関節など手術をした場合
切開を伴う手術の直後は痛みのコントロールを行います。創部のアイシングや足を上げることで痛みや腫れを軽減させることができます。
早い段階で膝関節を動かすことが大切なので、膝の曲げ伸ばしの練習をはじめます。手術の合併症である血栓の形成を予防するためにも、翌日には歩行訓練を開始。
痛みが落ち着いてくる1~2週間後からは、筋力訓練を中心に行います。徐々に歩行器や杖がなくても歩けるようにしていくのです。筋力増強、可動域訓練などを行い、日常生活が送れるようにします。
元の生活に戻れるまで通常3~6カ月かかりますが、高齢者の場合はさらに時間を要するでしょう。
再生医療の場合
PRP療法、幹細胞による再生医療でも投与した当日から軽い運動をはじめます。幹細胞に運動刺激を与えることで、治療効果が上がるといわれているからです。
投与直後、もしくは1週間以内に膝関節が腫れることもありますが、手術ほど強い痛みがないため膝を動かすこともそれほど困難なことではないでしょう。
膝を支える筋力をつけるための運動なので、翌日からも継続して行ってください。
再生医療の場合、翌日から通常の生活が送れますしスポーツもできます。
強い痛みを伴うリハビリは避ける
術後は多少の痛みを我慢したうえで、膝の曲げ伸ばしや歩行訓練を行わないといけない場合もあります。しかし、強い痛みが続く、リハビリの翌日にも痛みを感じるようであれば適したリハビリ(運動)ではなかったので、見直す必要があります。医師や理学療法士に痛みがあることを伝えましょう。
以下は避けたほうがいい動きです。
・凹凸のある道でのランニング
・強い衝撃のあるコンタクトスポーツ
・正座などの深屈曲動作
・重いものを持ち上げる
再発を防ぐためにはセルフマネジメントを
Vol.2で膝や腰の痛みを軽減するために心がけたいことをお話ししました。保存療法について解説した
Vol.5のなかでも、セルフマネジメントの大切さをお伝えしました。これらは治療後にも当てはまることばかりです。
特に、体重管理と筋力強化は必須事項。リハビリで行った運動を習慣にし、体重が増えないようにコントロールをしましょう。
適度な運動をして体重を増やさない
体重が1㎏増えると、膝への負担は3~4㎏増えるといわれています。手術をしても幹細胞を投与しても、膝への負担が増えれば再発の恐れがあるので、体重管理がとても大切です。関節を守るためにも筋力をつけることは欠かせません。筋力トレーニングをすることは、体重管理にもつながりますので、適度な運動を習慣にしましょう。
65歳以上の高齢者の場合、1日6000歩を目安に歩き、週2回以上の筋トレを行い、週3日以上ストレッチやラジオ体操などを行うのが理想とされています。
高齢者が運動をするときに気をつけたいこと
新しく運動をはじめるときには、運動をすることで影響のある内科疾患がないか、筋力や神経機能はどれくらい耐久性があるかを医療機関で診てもらうことが必要です。健康状態や運動能力を総合的に評価し、理学療法士とともに運動計画を立てていきます。
高齢者は転倒リスクがあるため、運動をするときは安全な環境を作ることが大切です。電気コードなどつまずきやすい物は片付けておきましょう。また、滑らないようにストレッチ用のマットを使うこともおすすめです。
高齢になると喉の渇きに気づきにくくなります。こまめに水分補給をして脱水症状を起こさないように注意をしてください。特に夏は涼しい場所で運動を行いましょう。
自分の体が発するシグナルに耳を傾け、不快感、痛みがある場合はすぐに中止をして休息をとってください。痛みが続く場合は医療機関を受診してください。
病院やクリニックでは、リハビリのなかで理学療法士が痛みを軽減する歩き方や、エクササイズの正しい方法など指導をします。不安なこと、気になることがあればぜひ相談をしてください。