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再生医療

2023/01/11
【Dr.もといの再生医療最前線!】16.老化細胞

「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり。」 論語 里仁

 

前回、老化と記憶についての回がありましたが、今回は老化細胞についてです。老化はどこから始まるのか、についてこれまでもさまざまな議論がされていましたが、また一つ明らかとなったことがあります。それは老化細胞の単離・働きについてです。

 

これまで老化というと遺伝子の一部に寿命を決める部分(テロメア)があって、細胞分裂を繰り返すうちに少しずつ短くなり、ついには細胞自体が分裂しなくなってしまうことが老化と考えられてきました。ほかにもさまざまな発見はありましたが、老化を促す細胞や具体的な治療方法について明らかとはされてきていませんでした。

 

実験では、サルコペニアという筋肉が“老化”するマウスをもちいて、その骨格筋をつかいました。マウスの骨格筋の中にこれまで有益だとされてきた細胞の一つが、実はそうでもないのではないかと疑い、評価したのです。この細胞は数が少ないものの、老化関連分泌型(senescence-associated secretory phenotype: SASP)3細胞を経てシグナルタンパク質(指令となる物質)を分泌し、組織を線維化させることがわかりました。

 

さらにこの実験では老化細胞の単離に成功し、老齢マウスに多く存在すること、障害部位に多くみられ その部位で老化細胞が増えやすいことを示しました。

 

老化細胞は2021年 本邦 東京大学の中西らが発見した、GLS1阻害剤(セノリティクス薬)で死滅することが知られており、Natureの著者らもダサチニブ・ケルセチンという薬剤で減らすことにより筋の回復がよくなったことを確認しています。また若いマウスであっても老化細胞を減らすことで、筋肉の修復がさらに改善されることも認めました。

 

これらの結果が示すことは、老化細胞という見える「敵」がはっきりしたこと、それらを限定的に死滅させる薬剤が使えるようになってきたことで、老化を食い止め、いわば若返るための具体的な戦略が立てられるようになったかもしれないということです。

 

2040年には医療における実現化を目指すとして、中西先生らはムーンショットプロジェクトとしてわが国から強い支援を受け、日夜開発に取り組んでおられます。

 

老化細胞を選択的に取り除く。秦の始皇帝が追い求めたという不老長寿の薬は、いまわれわれの近くにあるのかもしれません。

 

2600年の時を経て、孔子でさえ、道を知ってなお、生きることを望む(ことができる)時代がきたのかもしれませんね。

 

ではまた!

 

(加藤基)

 

参考資料

 

1Nature 613, 30-31 (2023)

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-04430-9

2.Science. 2021 Jan 15;371(6526):265-270.

 doi: 10.1126/science.abb5916.

3.ムーンショットプロジェクト紹介

 

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