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再生医療

2022/10/19
【Dr.もといの再生医療最前線!】13.皮膚の老化

「葉公、孔子を子路に問う。(中略)老いの将に至らんとするを知らざるのみ、と。」 論語 述而

 

最近、老けたな。しばしば鏡を見ると感じることがあります。小じわやシミなど様々な「老化現象」が皮膚に現れてきます。いやなもんです。

 

では、この皮膚の老化現象、どのようにして起こっているのか、どんな遺伝子が関与しているのか。これらを紐解くことで、治療に生かしていくことができる。ベンチ(研究)からクリニック(臨床)へ。今日は、つい最近 京都大学で発見・報告された新たな皮膚老化メカニズムを紹介します。

 

皮膚は三層構造でできています。外側から表皮、真皮、皮下組織です。建物でいうと表皮が外装、真皮が断熱材、皮下組織がパイプなどが通っている内側のスペースということになるでしょうか。この表皮の真皮側で一番深いところに表皮の幹細胞があります。この幹細胞が老化とともに元気がなくなっていく。この原因が詳しくわからなかったのです。

 

「いやいや、紫外線とかタバコなんかが老化の原因ってわかっているでしょ?」
そう思われた方、大正解です。紫外線は直接、タバコなどは酸化ストレスを介した皮膚の遺伝子の障害を引き起こします。でもそれだけじゃないから生体は複雑で面白い。だってこれだけだったら、日焼け止め塗って、タバコやめることでしか老化は防げないってことになりませんか?

 

結論から言いますと、今回発見されたのは、機械的刺激と血管系の微小環境が幹細胞のために大事ということです。なんのこっちゃ と思われるかもしれません。少し解説します。

 

皮膚の若さを保つには幹細胞が元気に分裂し、新しい細胞になってターンオーバーを繰り返すことが重要です。これまでも折に触れて紹介してきました通り、幹細胞はこれからなんにでもなれる赤ちゃん細胞です。表皮の幹細胞はこれから表皮(外壁)細胞に成長していく卵というわけです。

 

老化現象が始まると、まず真皮が固くなってきます。これは真皮内のPtx3という遺伝子の発現量が増加し、血管が減少することで起こります。すると表面からの機械的刺激に対して刺激反応装置であるPiezo1(メカノストレスセンサーとよばれます)が反応し、長期活性化します。つまり、真皮が固くなって血管が少なくなることが要因となって、ずーっと幹細胞が興奮状態となり、皮膚幹細胞が老化してしまい、最終的に元気を失っていくということです。

 

これまで幹細胞を取り巻く微小環境についてあまりよくわかってこなかったのですが、要は真皮が硬くなることや血管が減ることを抑えてあげることができれば、幹細胞を救える可能性がある というのが報告されたのです。

 

このあたり、局所注射による幹細胞治療の得意技です。エイジングに対する幹細胞の報告はさまざまありますが、真皮側のこういったメカニズムに対して有効であった可能性もありますね。

 

論語において孔子は、学問に熱中するあまり老化にも気づかないような人柄だったと弟子に言われています。そんな境地には、なかなか到達できそうもありません。現代の医療の助けを借りて老化現象を克服する方が、老いを感じにくくするのに近道なのかもしれません。

 

ではまた!

 

(加藤基)

 

参考資料

Ichijo, R., Maki, K., Kabata, M. et al. Vasculature atrophy causes a stiffened microenvironment that augments epidermal stem cell differentiation in aged skin. Nat Aging 2, 592–600 (2022). https://doi.org/10.1038/s43587-022-00244-6

 

 

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